【思い出話】 【陸上競技の話】

長距離ランナーの練習内容&スケジュール

私は中学校から陸上競技の長距離走を始めてから、実業団ランナーとなった現在まで15年以上走り続けてきました。

陸上競技を中心とする生活で人生の半分以上を過ごしてきた中で、長距離走が速くなるためのスケジュール、練習の組み立て方は年齢問わず各世代に共通しています。

この記事では、陸上競技漬けの人生を歩んできた私が「長距離ランナーの1週間のスケジュール」の概観をお伝えしたいと思います。

長距離走をしている人はもちろん、陸上競技や駅伝を知らない人にも分かってもらえたらと思って書きました。

今ではいろんな媒体で長距離の練習方法が記載されていますが、はじめの一歩としてお読み頂ければと思います!

長距離ランナーの1週間

それでは長距離ランナーの大まかな1週間スケジュールを画像でご覧ください。

これは私が中学校の時の練習スケジュールですが、実業団となった今でも大きく変わりません。日中の勉強が仕事に変わり、土曜日が2回練習に変わったくらいです。

大前提として、長距離ランナーがどんな練習をしているか?と言われると、基本的に日々走っています。

走れば走るほど、体が適応してより走れる体へとなります。
無駄な脂肪が減ったり、不要な筋力も落ちることで、見た目もスマートになることでしょう。

そして、必要な筋力や能力が発達していきます。
筋力はアップしますが、筋肥大は長く走るうえで邪魔になるので、大きくなるというよりも筋肉の質が変化していきます。

筋肥大はあまりしないので長距離ランナーの見た目は一般人とほぼ変わりませんが、体の内側でいろんな能力が発達しています。

実際に走ることで発達している主な生理学的な効果は、
・最大酸素摂取量の増加
・LT値の上昇
・毛細血管の発達

この辺りが挙げられます。
これらについては後ほど簡単に触れていきます。

走れば走るだけ効果は高まりますが、体への負担が回復量を上回るとパフォーマンスも下がり、怪我にも繋がります。

体への負担を減らして怪我のリスクを軽減させつつ走行距離を伸ばしたい、そういう意味で授業後や終業後の練習に加え、朝練習は長距離ランナーに必須と言えます。

そして1週間のうち1日はオフとなります。オフ日に軽く走る人もいれば全く走らず完全休養する人もいます。

1日に朝練習と午後練習の2回が5日間、さらに土日の練習を加えると、1週間での練習回数は12回程となり、これが長距離ランナーの一般的なスケジュールです。

これらを前提に、さらに練習内容に触れていきたいと思います。

走る中にも強弱がある

そもそも、今回の記事を作るきっかけとなったのが、職場の人との会話です。
当然ですが、陸上経験者と陸上に触れたことのない人たちでは長距離ランナーの練習の認識に大きな違いがありました。

ある日、職場の人に長距離の練習について「毎日全力で走っているんじゃないの?」と言われました。

陸上競技一筋の人生を送ってきた私は、「そんなわけないやん」と思いつつも、よく考えれば陸上競技を知らない人の認識ってそんなもんだよなとも感じたのです。

これまで私の周りには陸上競技者ばかりだったこともあり、こういう質問はとても新鮮で衝撃でした。
そのため、今回の記事は長距離走に触れてこなかった人にも分かってもらえるように意識して書いています。

それでは、長距離の練習について簡単にお話すると、
ほぼ毎日のように走っている訳ですが、ただ一定に走り続けているわけではありません。

ゆっくり走る時もあれば速く走る時もある、短い距離を走る時もあれば長く走る時もある、つまりただ走る中にも練習によって強弱があります。

ランニング初心者の方であれば、短い距離をゆっくり走るだけでも、体には大きな刺激となり、走るたびに体力の向上が感じられます。
言わば、伸びしろたっぷりの状態ですね。

しかし、我々のような日々走り込んでるランナーや、ある程度走り込んだランナーは、短い距離をゆっくり走った程度では体への負荷が少なく、体力の向上は見込めません。

パフォーマンスを向上させるには、体力の向上に伴い、適切にトレーニング量も増やしていく必要があります。
これは「漸進性過負荷(ぜんしんせいかふか)の原則」と言いますが、皆さんもこれまでの経験でなんとなく感じていると思います。

走る中にも強弱があると言いましたが、このうち弱の走りはイージーランといわれる走りです。
会話ができるくらいのペース、つまりジョギングです。
こんなイメージ↓

一方で、強の走りが「ポイント練習」と言われます。
試合に出場するようなランニングウェアに身を包み、軽く反発のあるシューズを履いてジョギングとはレベルの違うスピードで走り抜けます。
このポイント練習を一言で言うなら「映える」練習です。
疾走感があり、まさに陸上選手!と思えるような走りであるため、SNSでも陸上競技の練習動画がUPされていますが、これがいわゆる「ポイント練習」です。
こんなイメージ↓

陸上選手のインフルエンサーなら、映える練習をSNSにUPしたいという気持ちは当然ですし、TVでも映える練習を映像として使います。
このため、映像でしか陸上競技に触れない人からすると、長距離ランナーは毎日「ポイント練習」のようなことをやっていると思われがちです。

しかし、最初の表に書いた通り、ポイント練習は週に3回程度しか実施しません。

長距離ランナーの「ポイント練習」、つまり「映える練習」は1週間に約12回練習があるうちの3回程度しかしないことをぜひご認識ください。

ポイント練習とは

次に、ポイント練習はどんなことをしているのか書いていきたいと思います。

そもそも、ポイント練習の目的は必要な負荷を体に入れることです。
先ほども書いた通り、ある程度走り込んでいるランナーは、ジョギング程度では体への負荷が足りないので、さらなる向上は見込めません。

じゃあ必要な負荷を得るためには全力で走れば良いのでは?と思うかもしれませんが、全力走は体への負担が強過ぎて怪我の確率が上がり、日々の練習を継続することができません。筋力も回復せずパフォーマンスも徐々に落ちてしまいます。

となると、怪我をせずに必要な負荷を得られるギリギリのラインで走ることがポイント練習では求められます。

つまり、ポイント練習の目的をさらに付け加えると必要最低限の練習量で必要な負荷を体に入れる練習」です。

赤字の部分はつい忘れがちになるので注意してください!

それでは、練習の目的を理解したうえで、必要な負荷とは何なのか?

それは序盤に書いたランニングで得られる生理学的効果に刺激を加えることです。
適切なタイミングで適切な量の刺激を加えることで能力はさらに鍛えられます。
・最大酸素摂取量の増加
・LT値の上昇
・毛細血管の発達

重ねて言いますが、ランナー初心者はジョギングだけでこれらすべての効果が得られますが、経験を積んだランナーはジョギングだけでは一部の効果しか得られません。

特に最大酸素摂取量やLT値なんて、ゆっくりのペースで走っても大きな効果は見込めません。

では最大酸素摂取量なんて書いてあるから、全力で走らないと必要な負荷を得られないのか?と言われると、そんなことはありません。

このレベルのランナーはこのくらいのペースで走れば、最大酸素摂取量に刺激が得られる!ということ分かっているのです。LT値も同様です。

長距離ランナーは、このペース設定に基づいてポイント練習を行っているというわけです。

それでは、持久力向上のために必要な生理学的要素と、それに応じる練習内容を簡単にですがご紹介します。

ポイント練習の主な内容

最大酸素摂取量

運動強度が上がれば必要となる酸素量も増加します。長く、速く走り続けるためにはたくさん酸素を摂取できるようにならないといけません。
1分間に体に取り込める酸素量を「酸素摂取量」といい、限界まで運動した時の酸素を取り込める最大量を「最大酸素摂取量」といいます。

たくさん酸素を摂取できるようになるためには、たくさん酸素を必要とするペースで走らないといけません。
そのペースは、試合で12分間程度走り続けられるペースと言われています。

とは言え練習で12分走り続けたら、それは試合と同じ負荷となり、体への負担が大きすぎます。
12分走れるペースで、数分程度の短い疾走区間とそれに応じた休憩区間を繰り返すインターバルトレーニングによって最大酸素摂取量に刺激を得られ、酸素をたくさん体に取り入れられるようになるのです。

この時、疾走区間と休憩時間が長くても短くても適切な効果が得られないのでバランスが大事です。

最大酸素摂取量は、㎖/㎏/分で表されます。体重1㎏あたり1分間に何㎖摂取できるか、と表します。
一般人は大体40~50㎖/㎏/分ですが、エリートランナーになると70~80㎖/㎏/分になります。
5000mと10000mの元世界記録保持者のケネニサ・ベケレも80以上と聞いたことがありますし、私も過去に測定したときは70はあったような気がします。

要は、酸素をたくさん取り込める体は長距離走で有利ということです。

LT値

スポーツに触れていなければ聞きなれない言葉だと思います。

ランニングはご存じの通り有酸素運動です。
人は、ゆっくりのペースで走れば酸素だけでエネルギーをまかなうことができます。 しかし、ある程度ペースを上げるとエネルギー消費に対して酸素の供給が追いつかなくなります。

それでも走り続けようと、筋肉を収縮させてエネルギーを発生させるために、有酸素運動に加えて無酸素運動の割合が徐々に増えていきます。無酸素運動時は主に糖質をエネルギー源として使います。

ペースを上げ続けて無酸素運動の割合が高くなる、糖質をたくさん使うようになると乳酸が発生します。
そして、ペースを上げていくと、ある地点で血液中の乳酸量が大幅に上昇する地点があります。

この乳酸量が大幅に上がる地点をLT値と言います。

LT値で練習することで乳酸量の上昇を抑えられ、より速いペースでより長く走り続けることができるというわけです。
そして LT値のペースは試合で60分間走り続けられるペースと言われています

LT値も最大酸素摂取量と同じで、60分走れるペースでインターバルトレーニングを繰り返します。
ただ、最大酸素摂取量時に比べてペースが遅い分、疾走区間は長く、休憩区間は短くなります。
インターバルトレーニング以外にも、ペースを上下させてLT値に刺激を入れるペース走・変化走といった練習も行ったります。

従来は、運動強度を上げると乳酸が発生するため、乳酸=疲労物質と考えられてきましたが、今では乳酸はエネルギー源として利用されることが分かっています。

つまり、これまでLT値のペースで走ることで乳酸の発生を遅らせると考えられてきましたが、実際はLT値で走ることで乳酸を効率よく利用できるようにすると考えられています。

毛細血管の発達

長く運動を続けるためには筋肉を長く動かし続けなければいけません。
長時間の運動は、主に酸素を使ってエネルギーを発生させ、筋肉を動かし続けますが、どれだけ酸素を取り込めるようになっても筋肉に届けなければ意味はありません。

酸素を筋肉に届ける輸送路が毛細血管です。

瞬発性の高い筋肉を速筋、持久性の高い筋肉を遅筋と言いますが、遅筋は毛細血管が発達しているため赤く見えます。

よく魚の切り身で例えられますが、地面に隠れて瞬発的に動くヒラメは白身であるのに対し、海を泳ぎ続けるマグロのような回遊魚は赤身です。
ちなみに私が大好きなサーモンは白身魚です。

魚からも分かる通り、長く動くためには酸素を供給できる体にならなければいけません。つまり毛細血管を発達させることが重要です。

では、毛細血管を発達させるためにどうするかというと、長く走ることが重要です。たまごが先かニワトリが先か、みたいな話になりましたね。
走り続けて筋肉を動かし続けることで、必要な筋肉にたくさん血を送ろうと体が変化する結果、毛細血管が発達します。

表の半分以上を占めていたジョギングでも効果を得られますが、さらに長く走るLSDを取り入れることが有効です。

LSDはLong Slow Distanceの略で(薬物じゃないですよ)、長く走るほど有効ですが、当然走る距離はランナーによって様々です。
1つの基準としては、日常的に走っているランナーでは1度に走る距離の上限は週間走行距離の25%以内、もしくは150分以内のどちらか短い方と言われます。

ジョギングの重要性

以上の最大酸素摂取量、LT値を鍛える練習に加え、LSDも体に負荷がかかるため、「ポイント練習」と一般的に言われます。
そもそも、なぜ「ポイント練習」という言い方なのかよく分かっていません。

長距離ランナーに重要な生理学的効果をピンポイントで鍛えるからなのか、週の半分以上を占めるジョギングに比べて重要という意味でポイントなのか、理由は定かではありません。

が、気づけば「ポイント練習」という言葉を使ってきましたし、私の周りでも一般的によく使われています。長距離ランナーの方で、「ポイント練習」以外の言葉を利用してる選手がいたらぜひ教えてください!

これまで書いてきた通り、「ポイント練習」は非常に体への負荷が高い練習です。
特に最大酸素摂取量を鍛えるインターバルトレーニングはペースも速く辛いメニューになります。だからこそ競技力向上には欠かせませんし、練習ペースは個人のレベルに合わせて設定することが重要です。

逆に言えば、この設定ペースで走ることができれば、だいたいこのタイムでは走れるだろうという指標にもなります。
長距離ランナー同士の会話で「どんな練習をしているの?」と聞かれたら、この最大酸素摂取量を鍛えるインターバルトレーニングのメニューを伝える場合がほとんどです。

速い練習だからこそ印象にも残りますし、すごいタイムを持ってる人はどんなタイム設定でインターバルトレーニングをしているのか、長距離ランナーとしては非常に気になるところです。

ゆえに、「この人のタイムで走るためには、このタイム設定でインターバルトレーニングをしないとダメなのか、、、」と思います。
これは半分正解だと言えます。

と言うのも、表を見ても分かる通り1週間の練習の半分以上はジョギングです。これが長距離ランナーとしての基礎でありベースとなります。
そして、ジョギングとポイント練習の関係は表裏一体なのです。

なぜならポイント練習で走れる距離は、週間走行距離に比例するからです。
日頃のジョギングで足作りができているからこそ、ハードなポイント練習をたくさんこなすことができます。

ジョギングの量は、たくさん練習をできるようになるための器づくりと私は考えています。

練習の表を見てもらうと、ポイント練習の間にジョギングの練習が入っています。
短期的にはポイント練習がハードでしんどいため、翌日のジョギングは疲労もあるので手を抜いて走りたくなります。またすぐポイント練習がやってくるため、その日に向けて疲労も抜きたくなるのでサボりたくなる日もあります。

しかし、長期的に見ると先述した通り、走り込みの量に応じて体の毛細血管が発達して回復も速くなります。回復が速くなるからこそたくさん練習できるようになるというわけです。

様々なスポーツで基礎練習と言われる練習がありますが、長距離走の基礎練習と言えば、このジョギングだと言えます。

ついつい映えるポイント練習に目が行きがちですが、私がこれまで出会った強いランナーたちは日々のジョギングで手を抜く人は決していませんでした。

ここで強く言いたいのは、決してポイント練習だけで強くなるのではなく、ジョギングとポイント練習の組み合わせによって競技力は向上するということです。

最後に

職場の人に「毎日全力で走ってるんじゃないの?」と言われたと書きました。

実際に陸上の本を読んでたら、そんな時代があったようです。
まだまだ運動生理学が発達していない時は、毎日のようにインターバルトレーニングを実施するランナーもいたので驚きです…

しかもその人が非常に速く有名なランナーだったため、みんなその人のメニューを真似しました。

その結果、怪我をして思うような活躍が出来なかった名も無きランナーが過去にたくさんいたんだろうなと私は思ってしまいます。

その後、運動生理学やトレーニング方法も発達したことで、今回ご紹介した練習方法が主流となりました。

以下の記事をご覧ください。世界一のマラソンランナーと言われるエリウド・キプチョゲ選手の練習記事です。

https://olympics.com/ja/news/eliud-kipchoge-marathon-revolutionary-training-methods

この記事でも分かる通り、練習の大半がイージーランであり、強度の高いスピード練習は週に2回、ロングジョグは週に1回という内容でした。
キプチョゲ選手も基本となるイージーラン、つまりジョギングを大切にしていることが分かります。

このジョギングとポイント練習の割合が、怪我のリスクを抑えて効率よく競技力を高められると考えられ、長距離ランナーの主流となっています。

お仕事をされている方は走る時間を確保するだけでも難しいと思います。しかし、限られた時間の中で自分のトレーニング効果を最大限にするためにも、今回の記事が参考になれば幸いです。

何より、陸上競技を知らない人が少しでも陸上競技を知るきっかけになればとても嬉しいです。

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