私の中学校時代、週末になると市内中学校の陸上部員が陸上競技場に集まり、合同練習会が行われます。
市内の生徒たちと一緒に練習することで競い合い、競技力向上を目的としています。他校の先生からのお話を聞いたり、他校の生徒とも友達になれたりと、いろんな経験や学びのある良い機会でした。
しかし、合同練習会で学んだことはそれだけではありません。
合同練習会では、練習を始める前に各競技の準備を行います。
準備は自分の専門種目を問わず、集まった生徒全員でトラック・フィールド種目の設営を行うのです。
この準備作業を経験したことは、後の陸上競技に大きく影響しました。
今日は陸上競技場での準備作業という少し変わった話について書いています。
競技場練習での準備作業とは
合同練習会の日、競技場に到着して全体集合が終わった後、早速準備に取り掛かります。
とは言っても、陸上部に入部したばかりの私は何をしていいか分からず、先輩の後についていくことしかできません。
まずは先輩と一緒に陸上競技場の器具庫に入っていきました。
走り幅跳びの準備
器具庫に入っていった先輩は、まずスコップを私に手渡しました。
スコップなんか持って、競技場のどこで何をするのかさっぱりな私は、とりあえず先輩の後についていくと、その先には砂場がありました。
私:「あれ、さっきまで砂場無かったのに!」
先輩:「普段は雨風から砂場を守るためにカバーが掛けられていたから気付かなかったんだ。これから砂場の砂をスコップで掘り起こして、その後にトンボで砂を平らにする作業をやるから!」

競技場の砂場は、日が経つと乾燥したり、水分を含んだりで固くなります。
これから走り幅跳びを練習するのに、砂場が固いと着地の際、怪我する恐れがあります。
そう教えてもらい、競技場の砂場を掘り起こしていきます。こんなとこまで絶対跳べないだろって砂場の端っこの場所も一応掘り起こします。畑の土を耕すようなものです。
私が掘り起こし、掘り起こした土を他の人がトンボで均します。こうやって走り幅跳びの砂場が出来上がることを知りました。
私が砂場を耕している時、デカい板?を載せた台車がやってきました。
「このデカい板は何だ?」と思っていると、砂場から少し離れた場所にある蓋を外して、空いた穴にデカい板をすっぽりはめたのです。
「そうか!踏切板か!」

走り幅跳びの選手はスパイクで強く踏み切るため、踏み切る場所は削れてすぐに消耗します。
そのため、踏切板は取り換えできるようになっていたのです。
この踏切板は分厚い木で出来てました。
表面は白色で塗られてたものの、中心部分のよく踏み切る個所はスパイクで削れて木がむき出しです。
この板を見ていると、これまでたくさんのジャンプに耐えてきたんだなと思うとともに、走り幅跳び選手の踏切の強さと凄さを感じました。
デカくて分厚い踏切板ですが、助走をつけて勢いよく走ると歩幅を合わせるのが難しく、非常に小さく見えます。
全速力で勢いをつけると、足のストライドは2m以上にもなります。数十メートルの助走からスピードを殺さずにベストの踏み切りをするにはかなり難しいことを実際にフィールドに立つことで感じました。
そして、強い踏切で飛んだあとは、着地の時に怪我をしないため、砂場の準備も欠かせません。
1歩でどれだけ跳べるかというシンプルな競技について、より広く、深く知れたように思います。
棒高跳びの準備
砂場での作業が終わり、スコップを器具庫に戻した私たちは、手持ち無沙汰になりました。
何も作業をしていないと変に目立ってしまうので、周りを見渡して人の多そうな場所を見つけ、そこに混ざります。
そこではめちゃくちゃ大きな台車の上に、巨大なマットが積まれており、大人数で台車を押しています。
積まれたマットは、小学校時代に体育の授業で使った走り高跳びのマットの何倍も大きなマットでした。
巨大なマットを大勢の人が取り囲み、台車から降ろします。その中に私も加わり一緒に手伝います。
その後からも巨大なマットがいくつか運ばれて、降ろしては他のマットと繋げます。
ようやく全体像が見えてきました。このマットは、棒高跳び用のマットだったのです。
マットを繋げ終わったら、バーを置くための高い支柱を左右に設置し、棒高跳びの設営が完了します。
棒高跳びは、すごい人なら5m以上の高さを飛ぶこともあります。
それだけの高さから落ちてくるため、安全上分厚いマットを広範囲に準備する必要があります。
株式会社ニシ・スポーツ 用器具・電子機器カタログ 2023より引用
https://www.nishi.com/catalogue/2023equip/index_h5.html
大きなマットが必要なことは、なんとなく頭では分かりますし、実際にテレビで棒高跳びも見たことはありましたが、いざ準備をすると改めて大きさを実感するのです。
設営後、実際に棒高跳びのバーを下から眺めました。市内の中学生が飛ぶので3mほどの高さでしたが下から見上げると非常に高く感じます。
棒高跳びで飛び上がる時にポールを入れる部分(ポールボックスと言います)も見ましたが、そこはステンレスのような金属製で出来ていることをこの時初めて知りました。
実際のポールボックスはこれです↓
株式会社ニシ・スポーツ 用器具・電子機器カタログ 2023より引用
https://www.nishi.com/catalogue/2023equip/index_h5.html
ポールを勢いよくこの部分に入れて、棒をしならせることでバーを越える、これも頭では分かってるものの、本物の器具を前にすると、より競技の難しさを感じます。
走り幅跳びの時と一緒ですが、助走のスタート場所からポールボックスを見ると非常に小さく見えます。
器具庫で棒高跳びのポールに実際に触れましたが非常に長くて中学1年の私には重く感じました。微妙にしなるポールを持って走るだけでも難しそうなのに、全速力で勢いをつけると、しなりが強くなってさらに難易度は上がります。
実際にその場に立って道具を触ることでしか感じられない競技の難しさと凄さが分かり、各種目競技者へのリスペクトを持つことができたように思います。
3mに満たない高さでも、飛び越えてる様子を生で初めて見たときは、人間が棒だけでこんなに高く飛べるんだと思って感動しました。
それにしても、マットとポール、バーの設置台に加えて、ポールボックスという設備も必要であり、棒高跳びという競技を行うのは一苦労です。
我々長距離ランナーは道具をあまり必要としませんが、フィールド種目、特に棒高跳びは場所も設備も限られます。
というか、普通の中学校には棒高跳びの設備なんか無いので、うちの市内の棒高跳び選手は競技場で練習する時しかバーを飛び越える練習できません。
大量の巨大なマットやバーを置くための高い支柱など、置いてない中学校がほとんどです。
この環境による競技の難しさから、棒高跳び選手は少ないです。競技人口が少ない分、陸上競技の中では狙い目の種目かもしれません。地域によっては、県大会まですんなりいける場合もあります。
ちなみに2023年現在、男子棒高跳びの世界記録保持者であるスウェーデンのA・デュプランティスは、父親が元棒高跳びの選手で、自宅に棒高跳びの設備があるそうです。
これほどの設備とコーチである父親がいたことで世界記録保持者になれたんだと納得しちゃいました。
競技場での準備で得たこと
器具庫での発見
準備作業の経験は、後の陸上人生に大きく影響を与えたものでした。
これまで書いたように、道具を通じて他の陸上競技種目の難しさと凄さ、奥深さを知ることができたからです。
陸上競技場の器具庫には、様々な道具がきれいに整頓され、保管されています。通常の生活では触れることのできない道具に触れる機会があったことは貴重ですし、実際に触れないと分からないことはたくさんあります。
例えば、成年男子が使用する砲丸投げの重さは7.26kgほどの重さがあるのです。こんな重さをトップレベルの人は20m以上も投げるのですから、信じられません。
ボーリングの一番重い球を投げて、ノーバウンドでピンを越えてしまうというと凄さが伝わるでしょうか?
そして、この砲丸投げと同じ重さの鉄球に持ち手を付けたものがハンマー投げとなります。
遠心力を使って投げることでトップレベルの飛距離は80mを超えるのです。つまり砲丸投げよりも3倍以上の飛距離となります。
これを知って、遠心力の凄さも思い知りました。
さらに器具庫を見渡すと、短距離選手が使用するスターティングブロックが置いてありました(一般的に「スタブロ」と呼ばれます)。
初めてまじまじと見るスタブロの下には、スパイクのように針がたくさんついていました。
株式会社ニシ・スポーツ 用器具・電子機器カタログ 2023より引用
https://www.nishi.com/catalogue/2023equip/index_h5.html
この針があることで、短距離選手は自分の好みのスタートポジションにスタブロを固定することができるのです。
足の長さやスタートの姿勢で、最適なスタート場所は選手によって変わります。
スタートラインのギリギリ後ろに設置したい人もいれば、体が大きく足が長い人はやや後ろからスタートしたい人もいます。
スタート場所だけでなく、軸足や力を発揮しやすい足首の角度も人によって変わります。
そんな各選手のスタートに合わせられるように作られたスタブロは、何段階にも変更ができる調節機能がついているのです。
短距離選手のスタート前をよく見ると、スタブロを自分好みに調節する時間があります。
ベストの走りをするために、ベストのスタートを切るために、そんな選手の足元を支えるスタブロにも細やかな工夫が施されていることを、私は器具庫で学びました。
ちなみに、器具庫は砲丸や槍、また針がついてるスタブロがあったりと、非常に危険な場所でもあります。器具庫内でふざけたり遊んだりすることはやめましょう(私はいろいろ触ってて怒られました)。
陸上大会の補助員の存在
陸上競技場の準備で得たもう1つの学びは、陸上競技大会を運営するために多くの労力が割かれていることを知ったことです。
短距離種目にはハードル種目もあります。スタブロの他にもハードルを設置しなければなりませんし、男子と女子ではハードルは高さも変わります。また、男子110mハードルと女子100mハードルでは、ハードルを設置する場所も変わります。
フィールド種目では上述した通り、跳躍種目のマット設営から、バーの上げ下げも必要になります。
投擲種目は、記録の測定係から、遠くに投げたものをスタート地点まで戻す役目など、競技者のために、多くの大会補助員がスタンバイしてくれることで大会の運営が成り立っています。
陸上競技のタイムスケジュールは事細かに決められており、各選手はスタート時間から逆算して、ウォーミングアップを行います。タイムスケジュール通りに競技を進めるためにも補助員の人たちは裏で奔走しているのです。
実際に競技場で練習の準備をしなければ、大会運営の大変さ、どれだけの人が準備に関わっているのかも深く知ることはできなかったと思います。
※ハードルの準備ですごい動画があったので貼っておきます。こんなハードルを準備する様子は初めて見ました↓
私自身、陸上部員として大会補助員のお手伝いをしたことは何度かありますが、陸上競技大会は1日を通して開催されます。道具の運搬などももちろんですが、天気によっては炎天下や雨風の中での大会運営はなかなかの重労働です。
一方で、めっちゃ近くで競技をみれるという利点もあります。トラックの内側という超特等席から競技を見れることは、大会補助員の特権とも言えますね。
これらのことは、決して最初の競技場練習ですべて学べたわけではありません。中学校時代を通して、週に1度の競技場練習があったおかげで学ぶことができました。
度々言いますが、長距離ランナーは他の競技の比べ道具をあまり必要としません。
加えて、練習も各競技ごと別々で行われるため、陸上部と言えども他の種目はさっぱり分からない場合も多いのです。
私がそうならなかったのも、そして陸上競技観戦をより深く楽しむことができているのも、元をたどればこの時の影響が大きかったと思い、今回記事として書きました。
最後に、記事の中で画像を引用させてもらった株式会社ニシ・スポーツの陸上競技・用器具カタログのリンクを掲載します。
器具の種類がいろいろ分かりますし、陸上器具の値段の高さにも驚きますよ。昔学校の備品を雑に扱ってた私に見せてやりたいです↓


