【思い出話】

スパイクを手に入れた2戦目のレース

市内のレースに優勝してから2週間後、2戦目となる大会の日がやってきました。

今大会は市内を越えた範囲の中学校が集まり、前レースよりもレベルの高いレースとなりました。

参加学校数は倍増

中学1年の6月半ば、私の2戦目となる試合の日となりました。

会場は隣の市の陸上競技場です。市内の陸上競技場以外のトラックで走ることが初めての経験だったのでとても新鮮でした。

しかも今大会の会場は、総合運動場として野球場やテニスコート、クロスカントリーコースや宿泊施設までついており、敷地がとんでもなく広いのです。

そして出場校は、前回の市内大会の倍以上の学校が参加しており、各校の待機場所も必要となります。トラック外側の観客席は芝生となっており、各校がテントをたてて待機場所を確保します(この待機場所をベンチと呼んでいました)。

その光景はまさにキャンプ場のようです。赤いトラックの周りに芝生が広がり、その上には色とりどりのテントが建てられてます。とてもカラフルで、試合で来たのにピクニック感があり、ワクワクしたのを覚えてます。

自分のベンチからテントの数を見て、明らかに学校数が増えたことが分かります。

しかし、大会プログラムに記載されている出場生徒数はそれほど増えていません。

というのも、各種目ごとに出場できる人数が決まっているからです。

中学生の長距離種目は、1日で予選と決勝を走る体力も無ければ、予選を実施する大会時間もありません。予め決勝レースを行うだけの人数が絞られています。

中学1年1500mに出場できる選手数はおよそ16人、私の中学校から出場するのは2人。20校弱の学校が集まる大会なので、割合的に2人出れたら十分と言えます。

私は市内大会で優勝した勢いのまま、今大会も優勝を目指して試合に臨みました。

最高ランクの装備を手に入れた

今大会は前回の市内大会よりも多くの中学校が集まっており、確実に出場ランナーのレベルは上がっています。

それでも私はなぜか自信に満ち溢れていました。

それは、新しいシューズを準備していたからです。

忘れもしない、私の第1足目のスパイクはアシックスの「EFFORT」というスパイクです。

まだ同じタイプのスパイクが販売されてました!参考画像を貼っておきます↓

引用元:https://www.asics.com/jp/ja-jp/effort-13/p/1093A167-001.html?width=STANDARD&rrec=true より

サイトで見れば分かりますが、陸上競技初心者用のスパイクです。

前回大会が終わった後、地元のスポーツショップに行きましたが、陸上競技のスパイクは何がいいかさっぱり分かりません。SNSも無い時代で、とりあえずお店の人におすすめのシューズを聞きました。
今年の4月から陸上部に入部したことを伝えると、このスパイクを進められたので、迷わず購入しました。

初心者用のスパイクと言えども、前回大会は通学靴で走った私としては頼もしい相棒を手に入れたようなものです。

初めて陸上競技のスパイクを間近で目にして、針がついていることにも異常な頼もしさを覚えました。

針がついている理由は当時よく分かっていないものの、「針→強そう→速そう」という方程式が中学1年の私の頭に出来上がっていました。

何よりも、この「EFFORT」という英語の意味をご存じでしょうか。

そう、「努力」です。

陸上競技歴2か月の、大した努力も積んでいない私が「努力」を手に入れました。もう怖いものはありません。

傍から見ると、初期装備を手に入れたランナーですが、気分は最高ランクの装備をまとったランナーです。

大会の規模は市内からちょっと広がろうが最高ランクの装備を手にした私には些細なことでした。

気配が消えない…

ということで、レースが始まります。

スタートとともに2~3人が先頭に飛び出し、数人がそれを追います。そのさらに後ろに私は位置しました。

飛び出されたものの焦りは無く、市内大会の経験からこのペースならどうせ落ちてくるだろうと思い、少し後ろを走り続けます。

前回大会よりも1周目のタイムは速いものの、十分余裕がある状態でした。

「これがスパイクの力か!」とか思いながら、2周目に入ってからは、順位を徐々に上げていきます。

スタートしてから600mを通過し、先頭のペースが大きく落ちたのを感じて変わるように私は先頭に立ちました。その時勢いよく先頭に出たこともあって、後続との差がやや離れたのです。

その勢いで2周目の800mを通過しました。先頭で順調に走れており、体力は苦しいながらも余力を残している状態です。市内大会を優勝した時の感覚に近いものを感じていました。

このまま優勝だ!と走り続けましたが、前回大会とは決定的に違う感覚があったのです。

それは、後ろの気配が消えないことです。

明らかに前回大会よりも速いラップタイムで通過しており、今回はスパイクも履いている。これまでの大会規模なら独走しているはずですが、背後に忍び寄る気配と足音は一向に消えません。

それどころか、どんどん大きくなってきました。

ついには1000m通過時点で横に並ばれ、ラスト1周を前に、直線で先頭に出られました。

同級生を相手に長距離で負けたことの無かった私はめちゃくちゃ焦りました。私がこんなに苦しい状態の時、一緒に走っている同級生たちはいつも私より遠く後ろにいたからです。

しかし、今日は私が逆に離されようとしている。

自分より強い人と対峙したとき、漫画の主人公なら「オラ、ワクワクすっぞ!」となるかもしれませんが、漫画の主人公でない私は1ミリも思いません。

あるのは、焦りと負けるかもしれないという不安だけです。

先頭に立たれた時、ふと足元に目をやると、彼もまた針付きのスパイクを履いていました。

(……お前もスパイク履いてんのかい!)

より焦りと不安は増大します。

私は常々思います。
この状況でワクワクできて、闘志に火がつくメンタルを持っていたらなぁと。あいにく私はアスリート向きの強いメンタルを持ち合わせておらず、あるのはノミの心臓だけでした。

渾身のラストスパート

先頭に立たれたものの、決して離されるほどのペースではありません。

とにかく必死についていくことだけを考えます。

後ろについていると、若干余裕も生まれてきました。先頭の選手が風よけになってくれますし、前の選手の背中一点を集中して見ていると頭の上下動も減り、走りの効率も上がった気がします。

必死に離されまいとついていると、ラスト1周のタイムや1200m通過のタイムなんてこれっぽっちも気になりません。
どうすれば前のランナーより先にゴールできるか、それだけに意識を集中していました。先生の叫び声に近い応援の声も、私の耳には届きません。

カーブで追い抜くのは外回りになるから体力のロスになるので、ラスト300mを過ぎたバックストレートで先頭に並び返し、逆にラスト200mのカーブ手前で先頭に立ちます。

そして自分の余力から、ゴールまでスパートが持つ距離は150mだと判断し、残り150mを切ると一気にラストスパートをかけます。

元々短距離走も自信はありましたが、また追いつかれるか分からない不安な気持ちがいっぱいで、後ろも振り返らず全力でゴールラインを駆け抜けました。

ゴール後すぐ後ろを振り返り、自分が一番でゴールしたことを確認してからようやく安心し、膝に手をつきました。

(…なんとか勝てた、危なかった…。そういえばタイムは!?)

ふとゴール後の時計を見ると、まだ動き続けていたため何秒でゴールしたのか分かりません。しかし、時計はまだ4分50秒台を刻んでいました。

複雑な気持ち

うちの学校から出場したもう一人をゴールで迎えてから、先生の所に向かいレース後の言葉をもらいに行きます。

「ラスト勝負で競り負けず、よく優勝したな!二人とも自己ベスト更新よくやった!」

まだ完全に息が戻らない私たちに、先生は興奮気味に話してくれました。

市内大会よりもハイペースとなったことで、正式タイムはまだ出ていないものの、自己ベストが出たことは間違いありません。

そして、心なしか市内大会よりも先生の言葉に力がこもっているようにも感じました。市内大会は勝って当然、この大会で勝てるかどうかを重要視していたようです。

それから数分後、正式タイムが紙で掲示板に貼られていると聞き、すぐ掲示板に向かいました。

一番上に私の名前、そして名前の横に書かれているタイムは4分40秒台後半。前回よりも自己ベストを10秒以上更新したのです。

大会で優勝でき、自己ベストも大幅に更新。試合前は4分台を出せればいいと思っていたので、想定以上のタイムです。

しかし、私の気持ちは複雑でした。

(市内から少し出ただけで、こんなに強い選手がたくさんいるのか…)

2位の選手も4分40秒台でゴールしていました。

もっと楽に勝てると思っていたのに、同級生には長距離では負けないと思っていたのに、せっかくスパイクも履いたのに、大会規模がもう少し大きくなれば負けてしまいそう、そんな気持ちと優勝した喜びとが半々でした。

ずっと勝てていたからこそ、負けることに臆病になっていたと思います。自分の得意なことが負けることで失われる、そんな感覚もあり、どうせ負けるなら試合にも出たくないとも思いました。

それでも試合は続きます。優勝したことで、県大会への出場権を得たからです。

ただ、県大会までは約1か月先となり、それまでまた練習の日々が続きます。

次回は、陸上部の練習の様子と、それによって私の生活の変化についても書きたいと思います。

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